鉱物資源獲得競争波が 冬眠中の西サンバへと到達するかもしれません。

石鎚山から別子までの間の三波川変成帯へと、

人類にとって 常に 約束をはたす鉱物の存在なくして未来はありませんからね。

私も鉱物に見習い 約束をはたす男にならねばとおもいますよ。

清水


 

非鉄金属分野でメジャーの仲間入りを目指す住友金属鉱山のインドネシアでの戦略プロジェクトがお蔵入りとなった。ブラジル系企業と合弁で年産能力4万トンのニッケル製錬所を設けることを検討してきたが、交渉をまとめられなかった。プロジェクトを降りた住友鉱山の後釜に座ったのは中国企業だった。

住友鉱山、「非鉄メジャー」遠のく 中国勢が案件奪取

日経ビジネス

2022年6月3日 2:00

インドネシアはニッケルの一大生産地として知られる(スラウェシ島の採掘現場、2014年1月)=ロイター

日経ビジネス電子版

非鉄金属分野でメジャーの仲間入りを目指す住友金属鉱山のインドネシアでの戦略プロジェクトがお蔵入りとなった。ブラジル系企業と合弁で年産能力4万トンのニッケル製錬所を設けることを検討してきたが、交渉をまとめられなかった。プロジェクトを降りた住友鉱山の後釜に座ったのは中国企業だった。

「我々が計画していた工期等について、パートナーとの間でズレがあった」。住友金属鉱山の野崎明社長は5月18日、市場関係者や報道陣に対する経営戦略説明会の席で悔しさをにじませた。成長戦略の要だったインドネシアのプロジェクトの検討中止を表明したのは4月25日。住友鉱山の株価は説明会前日までに約15%も下がっていた。

「今回このような結果となったことは遺憾ではございますが、(中略)今後も資源の安定確保に努めてまいります」。検討中止の発表資料に住友鉱山はこう記した。中止したのは、インドネシア・スラウェシ島のポマラ地区で計画していたニッケル製錬所の建設プロジェクトだ。インドネシアは世界屈指のニッケル埋蔵量を誇る。

このプロジェクトは住友鉱山とブラジルの資源大手ヴァーレを筆頭株主とするインドネシアのヴァーレインドネシア(PTVI)が共同で、2012年に事業化への事前調査を始めた。投資規模は「数千億円」(野崎社長)を想定し、18年には事業化に向けた最終調査に入っていた。事前調査から数えると約10年もの歳月を費やしてきた案件が、あと少しのところでつゆと消えたことになる。

事業化へのスピード感に差

住友鉱山は長期ビジョンとして、ニッケルの生産量を現在の年約8万トンから15万トンに増やすことを掲げている。15万トンといえばロシアのノリリスク・ニッケルなど世界の非鉄金属メジャーの生産量に肩を並べる水準だ。ポマラの製錬所は年4万トンの生産能力を想定しており、実現すれば目標へ大きく前進するはずだった。

期待の大型プロジェクトに何が起きたのか。

住友鉱山によると、検討中止の決定的な要因は製錬所建設に向けたPTVIと住友鉱山のスピード感の違いだったという。住友鉱山は20年代後半の稼働を想定していたが、PTVIはより早期の稼働を望んだ。

新型コロナウイルス禍によって協議や許認可取得手続きが長期化した悪条件も重なり、「今後の展開が見通せない中で社内外のプロジェクト検討体制を維持することは困難なため、検討を中止せざるを得ない」(住友鉱山)との判断に至った。

PTVI側の変わり身は早かった。住友鉱山がプロジェクトの検討中止を発表したわずか3日後の4月28日、インドネシア証券取引所に上場しているPTVIは新プロジェクトの立ち上げを発表した。

早くも決まった新パートナー

PTVIが新たなパートナーとして公表したのは、中国コバルト大手の浙江華友鈷業だった。発表資料によると、PTVIと浙江華友鈷業は「高圧硫酸浸出(HPAL)法」という技術を採用するニッケル製錬所の実現に向けた協力の枠組みで合意し、発表前日の27日にサインを交わしたのだという。

その主な合意内容はこうだ。

(1)浙江華友鈷業はポマラHPAL施設の建設と稼働を担い、PTVIはポマラHPALプロジェクトに最大30%出資する権利を持つ

(2)新プロジェクトは浙江華友鈷業が実証済みの生産プロセスや技術を採用。PTVIのポマラ鉱山で産出される鉱石を処理して、ニッケルの中間原料を生産する。潜在的なニッケルの生産能力は最大で年12万トン

(3)両社はこのプロジェクトにおける二酸化炭素(CO2)排出量を最小限に抑えるために協力。このプロジェクトの目的のために、いかなる電源にも自家用または専属の石炭火力発電を使用しない

PTVIが住友鉱山との共同事業を断念し、浙江華友鈷業に乗り換えたという構図だけでなく、浙江華友鈷業が投資や技術の供与などの面で主導的な役割を果たすことが浮かび上がる。12万トンという数字が物語るように、プロジェクトの規模拡大にも積極姿勢であることも読み取れる。

ロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアでの産出量が多いニッケルの価格が急騰。ニッケルへ関心がにわかに高まった。その理由はニッケルが、今後世界的に普及が見込まれる電気自動車(EV)のバッテリーの主要な素材の一つだからだ。自動車産業のEVシフトが進むほど、ニッケルビジネスには追い風となる。

 

EVのバッテリーにはニッケルが使われている(トヨタ自動車のEV「bZ4X」の透過イメージ、床下にバッテリーが搭載されている)

国際エネルギー機関(IEA)の今年1月の長期予測によると、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に沿って脱炭素や自動車のEVシフトが順調に進んだ場合、世界のニッケル需要は40年に626万トンと、20年の2.7倍に拡大する見通しだ。

住友鉱山は車載用にも使われるリチウムイオンバッテリーの正極材の世界大手だ。ニッケルとそれを素材とする正極材の両方を自社でがっちり押さえることで、EVシフトの波に乗って成長する青写真を描いてきた。これを実現する上で重要なピースだったインドネシアプロジェクトの喪失は大きい。

実はPTVIにとって、住友鉱山は約15%の出資を受けている第3位株主だ。PTVIの20年末の資料によると、住友鉱山はヴァーレグループ(具体的にはヴァーレのカナダ法人と日本法人がそれぞれ43.79%、0.55%を出資)、インドネシア国営資源大手のインドネシア・アサハン・アルミニウム(イナルム、出資比率20%)に次ぐ。

大株主でありながら、PTVIとの共同事業をまとめられなかったことについて、住友鉱山は日経ビジネスの取材に対し、「取締役会に入っているわけではなく、日ごろから深く経営にかかわっているということもない」と回答。「株主であってもスピード感の溝を埋めることは難しかった。ダムの建設や周辺住民への影響などを考えると丁寧に進めていきたかったが、どうしてもかみ合わなかった」と説明した。

増産へ「仕切り直し」

5月18日の経営戦略説明会で、住友鉱山はポマラ地区でのプロジェクトの中止を踏まえた、ニッケル増産に向けた新たな方針を明らかにした。新たなニッケル鉱源の探索と、ニッケルの中間原料の生産方法を増やすのが柱だ。

PTVIと浙江華友鈷業の協力枠組みでも言及があった中間原料とは、鉱石からニッケルを生産する途中段階のものを指す。処理方法の違いによって、中間原料の種類も変わってくる。

住友鉱山はこれまで、不純物をより多く取り除けるという理由からニッケル・コバルト混合硫化物(MS)の生産にこだわってきたという。しかし、コストがより安価なニッケル・コバルト混合水酸化物(MHP)の生産についても検討する。

ただ、新たな戦略の具体化はこれからだ。それぞれの動きが年15万トンのニッケル生産という長期ビジョンに向けてどの程度寄与するのかも分からないのが現状だ。説明会での新方針の発表があった後、住友鉱山の株価は幾分上昇したものの、4月に付けていた6000円台の水準は遠い。

 

住友鉱山の22年3月期連結決算(国際会計基準)は、純利益が2810億円と過去最高だった。前の期の946億円の3倍に急増した。しかし、それは銅やニッケルの市況価格の記録的な伸びという外部環境や、チリのシエラゴルダ銅鉱山の売却益744億円を計上という一過性の要因によるところが大きい。

セグメント別の利益を見ると、資源事業が2085億円、製錬事業は1148億円。車載電池用の正極材などの材料事業は276億円と小さい。安定して成長していくためにはやはり銅やニッケルなどの原料の生産拡大が不可欠に見える。

そうした意味で、ポマラ地区の製錬所建設の中止によって、ニッケル分野で大きく収益を伸ばす計画が振り出しに戻ってしまった。野崎社長自身、金属事業本部長を務めていた15年に現地を訪れてプラントの立地を決めた経緯があっただけに、なおさら悔しい思いを抱いているに違いない。

野崎社長は説明会で、「(ポマラのために想定していた)時間と資金を(他の)ニッケルプロジェクトに投入する用意はある」と明言。「改めて仕切り直し、新規探索を進める」と力を込め、非鉄メジャーを再び目指すことへの意欲を示した。新たな事業機会を探り当て、投資家や取引先などに成長への道筋を示すことが経営陣にとっての宿題となる。

(日経ビジネス 田中創太)

[日経ビジネス電子版 2022年5月31日の記事を再構成]